株式会社読売IS様:属人化していた業務を洗い出してRPAで自動化、現場での使いやすさでipaSロボを選択
広告主ニーズの多様化が新聞折込の業務に属人化をもたらした
効率化で新事業に使える時間を確保したい
「新聞折込広告は、案件ごとに求められる内容が異なります。そのため担当者と業務がひも付きやすく、属人化しやすい傾向にあります」と指摘するのは、読売ISでRPA推進プロジェクトの事務局を担う、社長室室長の河野大児郎氏だ。
実際に、新聞折込広告の配布エリアの設定、マップ作成、大手流通得意先の会員分析など、営業担当者が対応すべき仕事の内容は幅広い。それ故、どうしても業務が個人にひも付いてしまい、担当者でなければ処理できない仕事が増えがちとなる。
広告主の要望は、集客が期待できるエリアに、最も効果的な内容と枚数で広告を届けることである。また長引く消費マインドの低迷は、広告主の要求を一層細かくした。読売ISの担当者は案件ごとに知恵を絞り、工夫しながら折込広告のクリエイティブ案や配布案を作ることで、広告主ニーズへ対応している。
広告事業を取り巻く時代背景も、読売ISにとっては課題だ。新聞折込広告の売上は「単価×枚数」で決まるが、デジタルメディアやSNSの普及によって新聞の発行部数が減少し、新聞とともに家庭へ届けられる折込広告の枚数も減っている。「受注件数(手間)が変わらずに、枚数(売上)だけが減っています」(河野氏)。
これらの課題への活路として読売ISは、新聞折込広告の売上をキープしつつ、それ以外の仕事を増やそうとしている。「個人にひも付いている業務をできるだけ効率化することによって、新しいことにチャレンジする時間を確保できるようになります」(河野氏)。こうして行き着いたのが、RPA導入による業務の効率化である。
現場だけでRPAを運用できる環境づくりが大事
分かりやすいipaSロボなら現場で使いこなせる
RPAを全社で展開する上での肝となるのが、プログラムの作成を含めて全て現場で対応できるようにすることだった。河野氏とともにRPA推進プロジェクト事務局を担う、社長室経営政策部担当課長の奧畑達也氏は、「現場だけでRPAを運用できることが何よりも重要です。RPAのシナリオをSIベンダーに都度発注していたら業務を効率化できません」と、その狙いを指摘する。
導入したRPAソフトは、デリバリーコンサルティング社のipaSロボ(アイパスロボ)。「自動化したい業務は得意先の数だけ存在し、要望も多岐にわたるので、クライアント型でスクリプト作成が比較的分かりやすいipaSロボは、当社の業務に適合しやすいと考えました」(河野氏)。
奧畑氏は、最初にipaSロボのデモ動画を見たとき、「マウスカーソルが勝手に動いているのを見て、本当に人が触っていないのかと不思議な気持ちになりました。実際にipaSロボを間近で見たときにも、本当に動くんだなと感心しました」と、RPAソフトとの出会いを振り返る。
RPA推進プロジェクトを営業部門の現場で推進している、営業推進本部営業推進部部長の堀内直氏も、RPAが複数のアプリケーションにまたがった操作を自動化できることに感心した。「個々の業務では、Excelや地図システムなど、平均して2~5個のアプリケーションを使っています。これらを横断した操作を自動化できるのは良いと感じました」(堀内氏)。
堀内氏とともに現場でRPA推進プロジェクトを推進する、営業推進本部営業推進部推進課リーダーの中野美咲氏も、RPAを高く評価する。「Excelのマクロは使っていましたが、複数のアプリケーションを同時に自動化できる仕組みは見たことがなかったので、これは使えると思いました」(中野氏)。
ヒアリングシートで業務を洗い出し 作業工程表がRPAスクリプトの設計図に
RPAを導入する上で重要なポイントは、「どのような煩雑な業務が社内にあるのか」「その中からどの業務をRPAの対象とするか」を検討することである。読売ISでは、「業務の洗い出し」「選定作業」「作業工程表の作成」「スクリプト作成」の4ステップでRPAを導入していった。
ステップ1の「業務の洗い出し」では、自動化できる業務が社内にどの程度あるのかを、全部門に対してヒアリングシートを使って調査した。各業務の所要時間と発生頻度を調べ、年間の作業従事時間を算出。東京本社で23部門から合計268件の業務が挙がり、業務時間はトータルで年間2万4000時間になった。
ステップ2の「選定作業」では、RPA化の対象とする業務を選び出した。まず、業務の洗い出しの際に、人間の判断が必要かどうかも取材していたので、人間の判断が必要なものはRPAの対象から除外した。この上で、作業負荷の高い業務から優先して自動化の対象とするように並べ替えた。
さらに、各業務の詳細と、使用するアプリケーションの情報を元に、事務局と推進マネージャーがRPA化の適否について判断し、(1)RPA化可能、(2)部分的にRPA化可能、(3)RPA化には再取材が必要、(4)RPA化に不向き、の4つに分類した。
奧畑氏は、RPA化できない業務についても、業務を整理できたことが大きな財産になったと評価する。「業務を整理したおかげで、それぞれの仕事の手順を見直すことができました。工夫できる余地が沢山あると分かったことは、RPA導入の思いがけない効用でした」(奧畑氏)。
ステップ3の「作業工程表の作成」では、選定した業務の手順を、実際の担当者とともにまとめたものである。作業工程表は、ステップ4の「スクリプト作成」のための設計図となる。作業工程表は、スクリプトの作成において重要であるほか、業務を理解し手順を見直す材料にもなっている。
入退館記録簿作成など2業務でRPAを実践 作業時間は60分が5分へと90%以上短縮
RPAの導入計画は、3段階に分けて進めている。第1フェーズ(2017年11月から2018年3月まで)では4つの業務を選び、RPAを業務に適用できるかどうかを探るとともに、スクリプトを社内で開発することの妥当性を検証した。第2フェーズ(2018年4月から2018年7月まで)では第1段階よりも難易度が高い15個の業務についてRPA化を検討し、RPAのライセンス料の償却の見込みなどを検証した。
第1フェーズでは、モデル業務として4案件を選定し、最終的に2つの業務でRPA化に成功した。いずれも人手の作業時間を90%以上削減できた。残りの2つの業務は、第1フェーズの時点では開発に必要な操作スキルが不足していたためRPA化を保留したが、現在も継続してRPA化に取り組んでいる。
RPA化に成功した2つの業務のうちの1つは「本社ビル入退館記録簿作成」で、RPAを部分的に適用した。まず、月初に前月分の入退館記録をCSVファイルとして出力してUSBメモリーにコピーした後、RPAソフトのipaSロボをインストールしたパソコンにExcelデータとして保存する。RPAソフトは、このExcelデータを使って入退室記録簿を更新し、プリンタで出力する。
本社ビル入退館記録簿作成の所要時間は、1回あたり60分で年間720分(12回分)である。RPAを部分的に適用することによって、作業時間は9.5分(うち人的作業は5.1分)に短縮、実働時間の削減率は92%に達した。
RPA化に成功したもう1つの業務は「折込配布エリア地図のPDF変換」である。大手チェーンストアなど多店舗の広告主用に、折込広告のエリアマップを店舗別に作成し、画像データとして管理している。これをPDFに変換する業務である。ipaSロボを使って、大量(最大300件)の画像データを1つずつ開き、PDFに変換して指定フォルダに格納する。
この業務に要する時間は1回あたり180分なので、年間1万8720分(104回分)に相当する。RPAを導入後の作業時間は80分(うち人的対応は10分)にまで短縮。時間削減率は94%に達した。
現場でRPAスクリプトを作るための社員教育と、RPA導入のメリットを全社に広める広報活動に注力
2018年10月現在、読売ISのRPAプロジェクトは第3フェーズに入り、RPAの全社展開に取り組んでいる。
RPAソフトのipaSロボは、支社含め約30の全部署に1ライセンスずつ導入する構想である。ipaSロボをインストールしたパソコンを各部署に1台ずつ配置する。各部署に1人ずつ仮想の社員を置くイメージとなる。2018年10月現在、スクリプトの開発もできるフル機能版が4台と、実行専用のランタイム版が3台で、合計7台のipaSロボパソコンを配置している。
第3フェーズでの課題は、業務現場のipaSロボスキルを高めるための教育と、全社に展開するための社内広報である。「RPAを現場で運用できるようにするためには、全部署でipaSロボスキルを高めることが不可欠です。このため、社内教育のプランを組み立てています」(河野氏)。
社内にRPAのメリットを認識させる広報活動にも力を入れる。「現場の実働時間を報告書にまとめてあります。RPAで圧縮可能な実働時間と、RPAのライセンス費用を比べて、投資に値することをアピールしています」(奧畑氏)。
作業工程表があれば、複数の業務で共通の処理が多いことも分かる。共通する処理に関するスクリプトを流用すれば、複数の業務を同時に効率化できる。「今でも業務の一部分だけRPAで自動化している例があります。違う業務でも同じ処理があれば、RPAスクリプトを他業務に再利用できます」(堀内氏)。
今後はRPAの管理にも注力する。1つの業務の全工程を自動化し、人の確認が全く介在せず勝手に処理されてしまうとガバナンス(ルール)違反の危惧やコンプライアンス(法令順守)へ抵触する恐れが生じるためである。会社が知らないところで勝手に野良ロボットが作られることを防ぐ体制と、チェック機能が求められている。