学校法人杏林学園様:総務人事関連の膨大な事務作業をipaSロボで自動化、“セルフRPA”で業務の生産性と品質を抜本改革へ
「眞善美の探究」を建学の精神に掲げる杏林学園は、医学部を筆頭に4学部を擁する杏林大学および大学院、さらには医学部付属の病院などを運営する学校法人だ。病院は、高度医療を提供する特定機能病院の承認を受けており、東京西部〜多摩エリアの中核的医療センターとしても知られた存在である。
学園の従業員(正職員)数は、約半分を占める看護師に加え、医師や教員、技術職など約3200人に上る。その人事関連サービスを一手に引き受けているのが総務部人事課だが、大所帯だけあって事あるごとに煩雑な作業が山積してしまう。そうした課題を抜本から解決すべく取り組んだのがRPAの活用だ。
デリバリーコンサルティングのRPAソフト「ipaSロボ」を導入し、手始めに6つの業務を対象に使い始めた。これまで人が対処していた正味360時間ほどの作業をソフトウェアロボットで代替するメドをつけるなど結果は上々。それに甘んじることなく、副理事長の松田剛明氏は「当学園は人の成長を重んじています。RPAによって捻出できた時間を“より創造的な活動”に充てられてこそ真の働き方改革に結実すると期待しています」と高みを目指している。
実務担当者が手軽に使えるipaSロボを選定
RPAに関心を寄せたきっかけは加藤真人氏(人事課係長)が、とあるセミナーに参加したことだった。RPA導入で経理業務の負荷を3割ほど削減することに成功したという他大学の事例を聴講したのに刺激を受けて情報収集を本格化。10数社のRPAソフトの機能や実績を調べるうちに「これは行けそうだ」との感触を得て、自ら推進役を買って出た。
幾つかのタイプや、それぞれの向き不向きがあることを知る中で、加藤氏は学内の実状を踏まえながら導入候補を絞っていった。まず条件に挙げたのが、サーバー型ではなくデスクトップ型のRPAソフトにすることだ。「当面は眼前の問題を解決することを優先したかったので、フットワーク良く導入できるデスクトップ型のRPAを選びました」と加藤氏は話す。
目に叶うデスクトップ型のRPAを3つに絞った段階で、各社から説明を受けると共に無償トライアル版を使って自分達で手を動かしてみた。ここで特に重視したのが「現場のエンドユーザーでも扱えるかどうか」だったという。「プログラミングを強いるような敷居の高さがなく、誰もが直感的にロボットを作れそうだという点でipaSロボが抜きん出ていました。ライセンス料なども含め総合評価し、最終的にipaSロボの導入を決断しました」と加藤氏は経緯を説明する。
あくまで現場に軸足を置き、実務担当者自らが検証~本番稼働まで対処できるRPA、すなわち「セルフRPA」であることが決め手となったのだ。
RPA化の候補は65業務、まずは6つで実証実験
人事課の業務は、年度替わりや制度改正などのタイミングで突発的に膨らみがちだ。「例えば3月~4月には職員の異動があったり給与算定ベースの変更があったりします。期日が定められた中で大量の事務作業をさばくには残業するしかないというのが従来の慣例でした」。そう話すのは人事課主任の飯塚香絵氏だ。
人事課課長の田中長文氏はこう付け加える。「もちろん複数人で手分けもするのですが、いつの間にか特定の業務が特定の人に紐付く、つまりは属人化していたことは否めません。他のスタッフに教えたり逐一質問に答えたりすることに時間を使うくらいなら、自分でやってしまおうというように、負荷が偏ってしまうことも間々ありました」。
業務の手順やルールが個人の頭の中に埋もれている状況では、どの業務にRPAを適用すべきかを検討・判断しにくいし、そもそも健全な状態とはいえない。そこで、まずは手順書や工程表を作成し、業務を可視化することから取り組んだ。「あらためて業務マニュアルを作るなんて煩わしくもありましたが、抜本的な解決になると思えばやる気も出てきましたね」(飯塚氏)。
こうして可視化した業務を対象に「面倒で作業量の多い定型作業」という観点からRPA化の優先候補をリストアップ。65の業務が挙がった中で、ロボットを作りやすく効果がすぐに出そうな6つに先行して取り組むことにした。
消費増税に伴う通勤手当チェックで絶大な効果
その一つが、2019年10月の消費増税に合わせた通勤手当の算出だ。正職員3200人+非常勤(100~200人)が新たに申請する定期券代に間違いがないかを最終チェックする作業である。人事システムから一人ひとりの通勤経路に関する情報を抽出したExcelファイルを用意。シート上にある乗降車駅名を経路検索ソフトに入力(コピー&ペースト)し、定期券代を調べた上で当該シートに追記する一連のフローをRPA化することにした。
学園としては経済合理性のある経路での定期代支給を基本としている。ところが、中にはそのルールを忘れて、利便性重視の経路で申請する人がおり、公平性を保つためにチェックが必要なのだという。新旧の定期代の差異が著しければ経路の申請ミスと察しがつく。「2014年に消費税が8%に上がった前回のことは思い出したくもありません。何人かで分担したものの終バスぎりぎりの残業が数日間続いたんですよ」──そう語るのは本田梨恵氏(人事課主任)だ。
今回はその本田氏が中心になってソフトウェアロボットを開発。ipaSロボを40時間動かすことで全ての処理が完了し、その間に人が関与したのは実質2~3時間で済んだという。前回は人がのべ約110時間を費やしていただけに「ほとんどの作業を健気こなす様子を見るにつけ、本当に有り難いと痛感しました」(本田氏)。
万全のサポート体制で疑問や悩みに応える
開発は思っていた以上に手軽だった。「画面上の動きを記録して再生するような感覚で臨めるのでプログラミングのような堅苦しい考え方は一切不要でした。簡単なロボットなら数時間のレクチャーを受ければ作れるようになるはずです」(本田氏)。先の通勤手当をチェックするロボットに関して言えば、2週間で原型を完成させ、3000人超の処理量に問題なく動くようチューニングするにも1カ月ほどで済んだという。
「ロボットが途中で止まる現象などに悩むシーンも度々ありました。結果的には、対象業務に関わるシステムの画面遷移の速度やタイミングを考慮すれば解決できたのですが、それらの問題はすべてデリバリーコンサルティングさんがサポートしてくれました。問い合わせの電話をすれば、すぐに答えてくれることの安心感は大きかったですね」とは本田氏の弁だ。
そのほかの5業務に関しても、現場のエンドユーザー自らがロボットを開発した。勤務データから残業申請の不備を抽出する業務のRPA化を担当した福澤穣氏(関連会社KRL・給与計算チーム課長補佐)は「コツさえつかめば開発は簡単です。何をRPAに任せるべきか、何を人がやるべきかの視点で業務をとらえる習慣が付いたのは大きな収穫でした」と振り返る。
「まだ6業務における初期導入の段階ですが、人手だった作業を置き換えられたのが正味360時間の削減になったと試算しています。これだけ見ても相応の成果が上がりましたし、コア業務への集中による生産性向上、利用範囲拡大に向けた風土醸成なども勘案すると、チャレンジして本当に良かったと思います」と田中氏は評価する。まさに「セルフRPA」の真骨頂だ。
他業務や他部署への展開で理想像を追求
もっとも、副理事長の松田氏が強調した「真の働き方改革へ」という観点では、これからが正念場とも言える。「ipaSロボの適用範囲拡大と使いこなしのレベルアップによって職員が創造的な業務により多くの時間を充てる環境を整えること。常にPDCAを回しながら業務の“あるべき姿”を追求する組織風土を根付かせること。それらが私どもの次なる目標です」(田中氏)。
すでにアクションは起こし始めている。人事課によるトライアルの成果を他部署にも周知すべく、取り組み内容を紹介するDVDを制作して説明会を開催。これまでのべ60人が参加し、アンケート結果からは関心の高さが伺われるという。実導入に向けたプロジェクトも動き出したところだ。
また人事課は、残す59の業務についても順次ipaSロボの適用を進める。疲弊することなく実直に業務をこなすロボットは課にとって有能なスタッフの一員だ。これからも効果を継続的に検証しながら適正な規模を模索していく構えだ。
「RPAの導入そのものがゴールではありません。与えられた仕事を表面的こなすのではなく、自分達の付加価値は何なのかを考えながら前向きに、そして楽しく仕事に打ち込める。そんな環境整備の一助になれれば嬉しいですね」──。首尾一貫して推進リーダーを担ってきた加藤氏の眼は先々を見据えて輝いている。